先日、相談者と見学させていただいた「平中の家」におじゃました時にも少し話したのだけれど、僕は建築のイメージが湧きあがりプランができるというような事は正直に言うとまず無い。
建築家の世間のイメージとして、敷地に建った時に建築のイメージが湧きおこり、サラサラッとスケッチに描いた紙切れをスタッフに渡し、スタッフがそれを形として図面化する、というようなものがあるけれど、僕の場合は全くそのようなケースは無い。
もちろんそういう風に建築をつくり上げる才能の有る建築家の方もいらっしゃると思う。実際、僕もそんな風に建築が出来たらどんなに楽だろうと正直羨ましくもなる。
でも僕の場合は、とにかく何度も何度も考えることでしかプランは出てこない。敷地の形状やロケーション(環境)、クライアントの要望や予算、そしてクライアント自身のパーソナリティといった様々な条件から問題をひとつひとつ整理し、ひたすらイメージし、ひたすらペンをスケッチブックに走らせるしかないのである。
もちろん最初の頃はプランなんてなかなかまとまらないし、出口が全く見えないような事も多い。何度も何度も同じところを行ったり来たりしながらひたすらプランを考える。
もちろん僕も住宅の設計というものを長くやっているし、ある程度の諸条件を整理していけばそれなりのプランというものはできるものです。でもそれでは自分が思う良い建築にはならない。
もっともっと細かいところのディテールまで考えながらプランを検討するし、住宅の設計というものは考えれば考えただけ良くなっていくものだと思う。そしてその考えた時間のエネルギーが出来上がる建築の質というか空気感にとても大きく影響する。僕はそれを経験的に知っている。
とある建売メーカーから僕のホームページを見て連絡があり、実際の建売住宅を建てるコンペに参加していただけませんかというお誘いがあった。
実はずいぶん昔にもそのような話をいただいた事もあり、建売住宅のつくり方というものを僕は少なからず理解していました。(その時のお話も最終的にお断りした。)
図面だって平面図と立面図程度の簡単な図面しか描かない。
それでお金がもらえるなら良い仕事だと思う人もいるかもしれませんが、では一体、日ごろの設計の仕事で何のために詳しい図面を何枚もたくさん描くのか?現場に何度も何度も足を運ぶのか?そうしないと良い住宅ができないと思うから僕はそうしているのです。
特に僕は人を驚かすようなデザインをする建築家でもなければ、斬新な生活スタイルを提案する建築家でもない。僕はごくごく普通の、心地良い当たり前の住宅をつくっています。それは毎日食べる白いご飯のようなものかもしれません。決して特別なものではありませんが、飽きるようなものでもありません。そして特別ではない日常的なものであるが故、きちんと丁寧に手間をかけるという事が大切だと僕は考えます。
仮に僕がコンペに参加し採用されたとします。でも簡単な図面だけ描いて出来上がる建売住宅は今までの僕が手掛けてきた住宅とはかけ離れたものにきっとなるでしょう。なんとなく僕が設計するような家の形をしているかもしれませんが、その中身はまるで違うものになっていると思います。
もちろん僕がコンペに参加しても、僕の案はきっと採用されないとも思います。それは僕自身が分かってもいる事です。だって目の前にクライアントがいないから。顔の見えないクライアントの家を設計する事は、僕は苦手というか出来ないのです。いつもクライアントの顔を思い浮かべながらプランを考えるから。
しかし何でしょうかね。なんか「チャチャッとそれらしいデザイン考えてみてよ、得意でしょ?」みたいに捉えられているのが残念で仕方ありません。