僕ら建築士は建物の設計と現場監理をするのが仕事です。
そもそも建物の設計業務と現場監理業務というのは、ごく小規模な建物を除き、建築士という資格を持った者でなくては基本的に出来ない仕事です。
でもそればかりが建築士の仕事ではありません。
特に住宅のような仕事はクライアント自身も建築について専門的な知識がある訳ではなく、建築士がクライアントに寄り添いながらプロジェクトを進めていく事が求められます。
誤解を招くかもしれませんが、クライアントに寄り添うと言ってもクライアントの言う事を何でも聞くという訳ではありません。かと言ってよく耳にするような建築家がまったく言う事を聞いてくれないというような、クライアントの意向をまったく無視する事も本来あってはならない事です。
建築士の業務を定めた建築士法という法律により建築士の業務が事細かく規定されている訳ですが、そもそも建築士というのは専門家として公正な立場で品性を持って建築を設計する事が求められているのです。
話が少し逸れましたが、建築士は建築の専門的な知識を持たないクライアントを最終的に良い形になるように導いていく必要があるという事であり、常にクライアントの傍に立ってアドバイスを行なったり、相談を受け、それに応えるという事が大切です。
僕自身のクライアントを例にとると、家づくりの最初から完成まで、いや完成した後もずっと家に関する疑問や相談事はすべて僕に投げかけています。クライアントにとってはどんな事だろうとまず僕に相談すれば良いので、誰に相談して良いのか分からずに思い悩むという事がほとんどないと思いますし、クライアントからもよくそう言われます。
クライアントがどういった人柄で、どのような暮らしを望み、そして建物はどのように設計し、そして造られているのか、それらを一番よく知っているのは最初から最後まで一緒に関わっていく僕ら建築士です。
ところが時々ネットなどで、設計事務所で家を設計してもらっている方がいろいろな悩みごとを相談されるケースが見受けられるし、メールなどで直接相談を受ける事もある。
そんな時に僕がいつも思うのは、「どうして設計してもらっている建築士に聞かないのだろう?」という疑問です。一番良く分かっている建築士に聞けば早いんじゃないのと思う訳です。
もちろん既に、設計してもらっている建築士にも相談できないような、お互いの信頼関係が崩れている(もしくは最初から信頼関係自体が無い)ケースも見受けられるのだけれど、そうではないようなケースも結構あると思うのです。
住宅設計に求められるのは設計そのものだけでなく、コミュニケーション能力です。当たり前ですよね、自分ひとりで完結して勝手に設計できるわけではなく、常に相手がいる仕事ですから当然と言えば当然です。
住宅設計の経験が豊富な建築家ほどクライアントとのコミュニケーション能力は高く、普通の人が思うほどお高くとまって言う事を聞いてくれないという訳ではないと思います。そうじゃなきゃ住宅の設計なんてできないと僕は思うんですよね。
正直他の方の事はよく分かりませんが(あまり同業者の方とのお付き合いもありませんし・・・)、僕はそう思うのです。
青木昌則建築研究所