僕のこのブログにおいてもよく使う言葉のひとつに「リアリティ」という言葉がある。
リアリティ(Reality)。
直訳すると現実とが事実とかいった意味だけれど、僕が使う感じとしては、実感性とか真実性とか、体感的と言った感じだろうか。
設計事務所に勤務していた若い頃、デベロッパーからの仕事で敷地の条件がFAXで届き、それに基づいてマンションのプランを大まかに計画するという事を時々やっていた。ある程度周辺の状態が書き込まれたFAXもあれば、ほとんど周囲の事がわからないFAXもあった。
当然現地確認なんてできない。(時間的に)
僕はその事に当然の事ながら違和感を感じていた。
敷地に実際に自分の身を置かないで、そこに建てる建築物をどうして考える事が出来るのだろう?
設計資料として敷地の形状や寸法、周囲の環境やインフラ、あるいは周辺を写した写真が揃っていればある程度の設計は出来る。(まるで一級建築士の製図の試験みたいだけれど・・・。写真はないけどね(笑)。)
でもそこにはリアリティが無い。
敷地があるその場所だけでなく、そこに至るまでの広域な環境や空気感なんかを感じないで設計なんて僕にはできない。(もちろん出来る人はたくさんいるだろうけど・・・)
建物はどこにでもあるような工業製品や商品とは違う。建築は単なるその建物だけで成り立っているのではない。その土地の環境があり、その中に建物が建つのである。
それはクライアントに対しても然り。
クライアントの顔を見ないで僕は設計が出来ない。(だからコンペは苦手だ。)
計画の時、設計の時、現場監理の時、僕は常にクライアントの顔を思い浮かべる。それはクライアントのための建築をつくっているからだ。
打合せもできる限りクライアントの家で行う。クライアントをよく知るために。
ヒアリングシートに書きこまれたクライアントの要望や、調べ上げた敷地の条件なんかも確かに重要なものだけれど、敷地から感じる事、クライアントとの会話から感じる事、クライアントの生活から感じる事が僕には必要不可欠だ。
先日プレゼンを行ったクライアントのMさんも打合せ後のメールで、「(提案されたプランが)最初はとても変化球のように感じましたが、要望や土地の状況から考えてとても理にかなったスッキリとしたプランだと思えてきました。」とおっしゃっていましたが、正直に言うと僕が提案したプランはMさんがヒアリングシートに書いた要望とは大きく違うところが何点かあります。
単にヒアリングシートの文面だけ読めばそういったプランの選択は無いのかもしれません。でも、Mさんとの会話から感じた事、敷地に立って感じた事をやはり形にしようと決めました。(もちろんそこに至るまでには悩んだり不安を感じたりしましたが・・・。)
でも建築ってそういうものだと僕は思う。
クライアントの気を引くためだけにデザインをするような設計はしたくない。(だからコンペは嫌いだ。)
別にクライアントを驚かせようなんて僕は思った事がない。クライアントがその敷地で、その家で心地良く暮らせる事を思い浮かべながら僕はプランを考えるだけ。